SPECIAL INTERVIEWー子どもたちの背中を押すことのできる小児科理学療法を目指してー

SPECIAL INTERVIEWー子どもたちの背中を押すことのできる小児科理学療法を目指してー

SPECIAL INTERVIEW―子どもたちの背中を押すことのできる小児科理学療法を目指して―

広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
額田 愛子 先生

広島大学病院での小児科理学療法の現状について教えてください

当院の小児科病棟は40床です。平成30年度の小児科リハビリ処方数は85件で、これは全診療科に対する割合でみるとわずか2.5%です。これだけ聞くと小児を診る機会が少ない様に感じますね。しかし、小児科は在院日数が長く(表1)、入退院を繰り返している児もいます。そのため、処方数が少なくても介入期間が長く、リハビリ介入の回数が多い状況です(表2)。

疾患としては「がん」と「難病」に大別されます。その他に脳性麻痺などの重症心身障害児・者もいますが、呼吸不全などの急性増悪時や術前後といった場合のみで、ごく少数です。

「がん」は白血病をはじめとする血液のがんが多く、他には膠芽腫などの脳腫瘍、ユーイング肉腫や骨肉腫、臓器系のがんが挙げられます。「難病」は難治性てんかんや白質脳症などの脳疾患や、成人でいう筋萎縮性側索硬化症にあたる脊髄性筋萎縮症などの神経筋疾患、その他、稀少疾患・難治性疾患と呼ばれるものや、診断がつかないような症例なども多くいます。これらは全てががんリハで処方される訳ではなく、脳腫瘍やてんかんは脳血管リハ、骨肉腫は切断や人工関節置換も予測されるため運動器リハで処方されるケースもあります(図1)。

小児科理学療法では具体的にどのようなことをしているのですか?

当院では化学療法や移植などで免疫力が低下している児や放射線治療を行っている児、難病や治療方針に難渋する児が集まってくるので、リハビリ処方が出ても「どうしよう、何ができるかな」となりがちですが、基本的には成人のリハビリと一緒です。ですが当然「小児」特有の視点は必要ですので、その点に絞ってお話しします。

当院の小児科理学療法では、辛い治療に耐えている児も多く、「理学療法を実施する」というよりは「楽しいことをしてくれる人」と子どもに感じてもらうことがとても重要になってきます。そのため、とにかく一緒に遊び、まずは仲良くなって子どもやご家族との信頼関係を築きます。その「遊び」の中に耐久性向上や廃用予防、機能回復、発達支援などの要素を組み込むイメージです。また、急性増悪時や進行性の神経筋疾患、肺炎等を発症した場合には子どもとのリハビリだけでなく、ご両親への指導が必要となります。当院では呼吸理学療法やポジショニングの指導に加え、カフアシストなどの排痰介助機器の導入を行い、在宅で継続できるような支援をしていきます。更に、難病や脳腫瘍にて身体障害者手帳を交付された児に対し、座位保持装置やバギー等の補装具、入浴介助用具やチャイルドシート、ヘッドギア等の必要な生活福祉用具を業者と一緒に選定し、在宅環境を整える役割も担っています。

骨肉腫は日本では年間約200人程度の発症と症例数は少ないですが、当院には腫瘍切除に伴い、人工膝関節置換術(Kotz)や切断を余儀なくされる児もいます。術後は、化学療法を継続しながらの可動域運動や筋力トレーニング、松葉杖での歩行練習を行います。切断症例では断端管理から始め、切断肢の機能再獲得に向けて、義肢装具士とともに義足歩行獲得を目指し介入します。

 

退院後のフォロー体制について教えてください。

治療が一旦終了するとリハビリがメインになってきますが、当院ではリハビリ目的の入院はありません。小児では親が介護可能である場合が多く、例え人工呼吸器がついていたとしても、特に何か問題がない限り自宅退院となります。すると、障害のある児や身体機能的に介助が必要な児、医療的措置を必要とする「医療的ケア児」を自宅で診ることになります。こういったケースには訪問看護や、訪問リハビリなどの医療支援や訪問ヘルパーといった福祉支援を必要に応じていれます。成人と同じように小児のデイサービスもあり、レスパイト目的での短期入所も可能ですので、就労を継続しているお母さんもたくさんいらっしゃいます。第三者の手は必要ではないけれども、医療スタッフの目が必要な児に対しては療育センターの利用や民間の通所サービスなども勧めています。

上記に挙げたサービスの調整は、当院では病棟専任の医療ソーシャルワーカーや退院支援看護師、小児がん相談員の力を借りて多職種で連携して行っています。近年、成人同様に小児分野でも在宅支援(福祉関連)が必要である場合には、相談支援専門員をつけることが定められました。しかし、小児分野での相談支援専門員はまだ少なく、広島県でも十分とはいえない状況にあります。現在は、移行措置として必ずしも相談支援専門員をつけなくても訪問ヘルパー等のサービスを利用することができますが、今後は成人同様に必ず相談支援専門員により、ケアマネジメントしていただけるようになると思われます。

 

小児というと、ご両親の存在も気になりますが・・・

家族との信頼関係をいかに築くことができるかはリハビリを継続していく上でとても重要です。我が子の突然の発病に、ご家族は想像できないほどの悲しみに溢れています。「まさかうちの子が・・・。昨日まで普通に元気よく走り回っていたのに。」と流涙されながら話される言葉を何度も聞いてきました。他人には想像できないくらい、辛い状況にあります。そのような状況下でもリハビリ処方となれば、病室を訪ねなければなりません。時には受け入れていただくのに、時間がかかるケースもあります。「こんなにしんどそうなのに、リハビリするんですか?」と、言われることもよくあります。しかし、私たちがリハビリのプロとして、真剣に子どもに向き合う姿勢をみていただくことで、徐々に信頼関係を築いていくことができると思っています。何度も会ってお話しをして、相談を受けて、少しずつですがリハビリの必要性も理解していただけるようになっていきます。入院中の辛い時期に一緒に寄り添い、ご家族で良い時間が過ごせるようにサポートできる関係が理想です。

 

広島大学病院での特徴的な取り組みはありますか?

当院では作業療法士主催でグリーティングケア「いちご会」を年に2回開催しています。児が亡くなった病院に来るのが辛いと言われるご家族もいますが、当院での入院中の思い出を語りに毎回来て下さる方もいます。1回の参加人数は20人前後で、グループに分かれて児の話をします。入院中の経過や最期の時のこと、今の生活について語ります。年月が経つと周りに亡くなった児のことを知らない人もいて、児のことを話す機会が少なくなってしまう。そんな時に、「いちご会では、気兼ねなく話をすることができます」と言っていただけます。涙は出るし、悲しい思い出を彷彿させることもあります。しかし最後には「良い会だった」と思える、ご両親にとっては貴重な場です。この会はご家族のために開かれているものですが、私はいつも、自分のグリーティングケアになっていると感じています。長く一緒にリハビリをしていた児の死に直面した時、どうしても立ち直ることができなくなるときがあります。いつも最期のことを考えてしまい、関わることが怖くなって逃げ出したくなります。そんな時に、いちご会でご遺族に会って「リハビリしてもらってよかった、とても嬉しかった」と、声をかけていただくことで、今も何とか前に進むことができています。

 

先生が理想とされる小児科領域の理学療法とは?

小児といってもいずれはみんな成長して、小児ではなくなります。障害を持ちながら社会でどう生きていくのか、家でどのような生活が待っているのかを考えて、プランニングすることが重要だと思っています。「病気」というと「今」を診がちですが、児はずっと病院にいるわけではありません。歳を重ねることでそのたびに生活環境が変わっていきます。その「行く末」を想像した上で、目の前にいる児と向き合い、今すべき理学療法を提供できる理学療法士でありたいと考えています。懸命に生きようとしている子どもたちにいつも背中を押してもらっている状態ですが、いつか私が子どもたちの背中をどんどん押して、さらには引っ張っていけるような存在でありたいです。

(この記事はHPTA NEWS One Step260 に掲載されました)

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