SPECIAL INTERVIEW―呼吸リハビリテーションの現状とさらなる提供体制の整備に向けて―

SPECIAL INTERVIEW―呼吸リハビリテーションの現状とさらなる提供体制の整備に向けて―

SPECIAL INTERVIEW―呼吸リハビリテーションの現状とさらなる提供体制の整備に向けて―

大成呼吸器クリニック
岩城 基 先生

これまでの呼吸リハビリテーションとの関わりを教えてください

私が呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)に携わるきっかけとなったのは、母校である長崎大学で千住 秀明 先生(前 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)より、ご指導いただいたことです。卒業後はあまり深く悩むことなく呼吸リハの道に進んだのですが、呼吸器の疾患を持つ方とのふれあいの中で徐々にやりがいを強く感じるようになりました。長崎、また地元である広島で数年働いた後に、縁あって東京の病院で勤務することとなりました。東京で約10年近く勤めた後に帰広し、吉島病院、太田整形外科・大成呼吸器クリニックでの勤務を経て、今年から現職場である大成呼吸器クリニックで勤務しています。その間、東京の病院では当時とても珍しかった呼吸リハの終末期ケアにも携わらせていただきました。各地での勤務を経て感じたことは、「慢性期をしっかりとサポートするための呼吸リハを提供する施設が非常に少なく、不安を感じながら在宅療養生活を送っている患者さんが多くいる」ということです。

当クリニックには、在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)を導入する前の軽症や中等症の方も多くいらっしゃいます。様々な重症度、様々な療養生活状況の方に、最も効果的な呼吸リハを提供することは勿論重要です。とくに軽症・中等症で、今の時点では強い症状がないために治療やリハビリ介入の必要性をあまり感じてない方にも、介入の機会を作ることは重要だと思います。患者さんが体力や活動性を維持する大切さを理解したり、リハビリを経て運動時の息切れが軽減することを体験したりすれば、今後の療養生活で症状が強くなった時などに思い出してくれることもあるでしょう。

しっかりとやりたい活動を続けながら息切れの少ない在宅生活を送り、増悪を早期に見つけ対処することが、より良い在宅療養を長く維持するためのポイントではないかと感じています。

呼吸リハの現状について教えてください

最もエビデンスが充実しているのは、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)に対する呼吸リハの効果に関するものです。日本におけるCOPDの有病率は40歳以上の約8.5%と言われていますが、その中には軽症者から重症者まで含まれます。COPD患者の主な症状は咳・痰・息切れですが、軽症者の多くは、それらの症状があまり出現しません。症状がないということは、病院に行かない方がほとんどですので、軽症のCOPD患者は正しく診断されておらず、罹患の自覚がない場合も多いです。当然ながら、COPD軽症者への呼吸リハはほとんど行えていないのが現状です。また高齢化によりCOPD患者は増加・重症化が進んでいるといわれており、高齢者の特性を踏まえた、呼吸リハの構築は急務となっています。

また間質性肺疾患や肺結核後遺症、神経筋疾患、肺がんなどに対する呼吸リハの効果についても、近年、関連学会での報告は増えており、エビデンスが蓄積されつつあります。

呼吸リハを取り巻く課題はありますか?

理学療法士であれば、『呼吸リハ』という言葉を聞いたことがない人はいないと思いますが、実は呼吸リハの提供体制にはまだまだ課題があると認識しています。脳卒中や骨折等、発症・受傷が比較的はっきりしている疾患と違い、慢性呼吸器疾患の多くは緩徐に進行します。 COPDを例にとると、軽症者は、疾患の進行に伴い自分では気づかないうちに日常生活での活動性を少しずつ低下させています。このような経過を辿る場合、元気な時と比べて活動性が半分程度になっても、自分では病気が進行していると気づかないことも多いのです。その後、苦しさに耐えられなくなったり、肺炎等を契機に急性増悪を起こしたりして受診するケースが目立ちますが、病院を受診する頃には、中等症〜重症に進んでいる状態が多いです。中には、受診した時にはすでにHOTが必要な状態になっている人もいます。

このような現状となっている要因は多岐に渡ります。呼吸ケアの関連学会でも呼吸リハのステートメントやガイドラインの作成などで普及を図っていますが、まだまだ認知度が低いことが報告されています。当クリニックでは「慢性期の呼吸ケアの認知度」、とくに「予防的な呼吸リハの認知度」の向上を目指し、一般の方を対象に市民公開講座や定期的に呼吸教室を開催しており、参加者からは「呼吸に関係するリハビリがあるとは知らなかった」、「呼吸の方法を身につけることは、元気なうちからも大切なことですね」などの声が聞かれます。呼吸の悩みを抱えて不安な生活を送っている方が遠方から参加され、少しでも明るくなれるサポートができた時にはやりがいを感じます。

ただ、啓蒙啓発を通して、COPDを中心とした疾患に対する認知度が改善し、将来的に早期受診が実現されたとしても、現状では呼吸器疾患の悪化予防を目的とした軽症期に対する外来での呼吸リハを提供できる場所は非常に限られています。呼吸器疾患患者のより良い慢性期を支える医療機関が、増えてくることを望んでいます。 軽症者に対する運動療法の効果検証については十分とは言えませんが、運動療法に加えて薬物療法・栄養療法・自己管理等もセットにした包括的呼吸ケアはCOPDの症状の悪化を防ぐことができます。また、一度増悪を経験した人でも次の増悪を予防することができるので、呼吸リハにはそのような役割があることを広めていく必要があります。もちろん医師からも呼吸リハは治療手段のひとつとして認識されていますが、いつから開始するのが良いか・どういう時に依頼したら良いか・どの病院で行っているか等は詳しく知られていないことも多く、必要な方に呼吸リハを提供できていない現状があるように感じます。全国的にみても、特に予防的な外来呼吸リハというのはまだまだ広がっていません。外来の特性上、毎日呼吸リハを提供することは現実的ではありません。適切な運動の種類・頻度とその効果、呼吸リハの適応や限界等、データを蓄積しながら、きっちりと発信していく責任があると思っています。

呼吸リハを専門とされる方の中でも、軽症期から終末期まで幅広く経験されている方は少ないと思います。呼吸リハの終末期ではどのようなことを行っているのですか?

現在の職場のように軽症者を対象とした外来での呼吸リハに携わる前は、終末期呼吸器疾患患者の緩和ケアに携わっていたことがあります。ホスピスや緩和ケア病棟は基本的に癌等の限られた患者さんしか入れないので、実は慢性呼吸不全等の緩和ケアというのはまだまだ広まっていません。

終末期の患者さんに対して呼吸リハを行うことで呼吸苦を少しでも和らげることができることは非常に重要な役割だと思っています。緩和ケアでは、理学療法士としてできることはコンディショニングがメインになってきます。終末期特有のリスク管理やポイント等を押さえておけば、あとは状況に合わせて柔軟に関わることになりますので、終末期以外の患者さんに対する呼吸リハと実際にはほとんど変わりないです。患者さんご本人やご家族は、亡くなる前にできることはもうないと思ってしまうことが多いのですが、私は終末期であっても話すこと・食べることを可能な限り維持できるように心がけて介入していました。非侵襲的陽圧換気(non -invasivepositive pressure ventilation: NPPV)をつけている時は会話や食事ができませんが、呼吸介助を行い、たとえ少しの時間でもNPPVを外す時間を作ることができれば、会話や食事が可能になります。これにより、患者さんのQOL(quality of life)は一時的ではありますが確実に上がると思います。

おわりに

現在、理学療法士が活動する呼吸リハの対象は中等度〜重症の患者さんが中心ですが、軽症期から終末期まで呼吸リハを必要とする患者さんは大勢います。そのような方にもきちんと理学療法を届けられるよう、これからも環境を整備する努力を続けていきたいと思っています。

(この記事はHPTA NEWS One Step256 に掲載されました)

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